数多の作品を鑑賞している映画愛好家としても知られる音楽家・小西康陽氏が、衛星劇場の「蔵出し」映画を視聴。テレビ初放送の“逸品・珍品”が集う作品の魅力をナビゲート!
個性的な男優が魅力的な 日活ロマンポルノ
目下、ラピュタ阿佐ヶ谷で上映中の特集「『ORGASM』的偏愛ロマンポルノ」に通っていて、個性的な男優に魅了されています。『実録 白川和子 裸の履歴書』(73)は、虚実をもてあそぶ、たとえばジャン・リュック・ゴダールやウィリアム・クラインの、その向こう側にあるような映画でした。『団地妻 二人だけの夜』(78)は鶴岡修の魅力が全開!
最新技術で蘇った川頭作品 いいとこどりの佐田啓二が憎い
8月は、川頭義郎監督の『かあさん長生きしてね』を放送。青森県津軽の十三潟湖畔と東京の下町を舞台に、多感な青春の哀歓と親子の愛情を描いた物語です。
実は今作は、すでに今年2月にシネマヴェーラ渋谷で鑑賞済みなのですが、その際はプリントの劣化が激しい記憶がありました。そんな今作が、最新技術でのスキャンを経て、美しい映像に蘇っています。
見どころは数えきれないのですが、それは川頭監督ならではの、登場人物全員に対しての細やかで丁寧な演出ゆえ。主役の和夫を演じる勝呂誉と米子を演じる倍賞千恵子の弾ける若さはもちろん、川頭監督の実弟である川津祐介が米子の兄・精一役で出演していたり、和夫の母を演じている田中絹代が津軽の風雅な景色に引き立てられて実に美しく映し出されていたりと、メインの4人だけではなく、伴淳三郎や葵京子らが演じる脇のキャラクターもしっかりと光が当たっているあたりは、さすが川頭監督とうなりました。
それにしても、倍賞千恵子は貧しい生活を送りながらも健気に働く役柄がやはり似合うなと思いつつ、中村登監督の『暖春』(65)で見せたOL役も妙に色っぽかったことを思い出してあらためて惚れ惚れ。川津祐介といえば、後年、大映映画で見せる怪優ぶりも見事だったなと振り返り、田中絹代は晩年に出演していた名作テレビドラマ「前略おふくろ様」(75)もシンクロしました。
そんな中、今作でいちばんいいところをかっさらっていったのは、和夫が勤めるクリーニング店に現れた助っ人の大島を演じた佐田啓二です。彼が職人を演じた映画というと木下惠介監督・原節子主演の『お嬢さん乾杯!』(49)での自動車修理工の役が思い出されたものの、スターとなってからの職人役はまた格別で、大島がつっけんどんな男と思わせておいて実は情に厚い二枚目だったというところもズルすぎる!
かあさん長生きしてね 8月5日🈷 前8:30〜ほか 62:松竹配給
社会活動家で随筆家の加藤日出男の著書を川頭義郎監督が映画化。物語は、加藤が労働青年の交流場として結成した「若い根っこの会」での実話に基づいているという。中学卒業後青森から上京し、クリーニング店で住み込みながら働く主人公と、息子を女手一つで育てた母親との親子愛、クリーニング店近くの中華料理屋で働く女子店員との恋愛など、1960年代に生きる、決して裕福ではない若者の青春を描く。古き良き東京の街並み、クリーニング店が使うレトロなバイク、従業員の居住スペースを団体客用の飲食の場に提供する中華料理店など、今では見られなくなった風景が、物語の端々に活写されている。倍賞千恵子と勝呂誉の主演2人のほか、田中絹代、川津祐介、佐田啓二、伴淳三郎、清川虹子など、豪華なキャストが脇を固めている。
廣澤虎造の浪曲と バタヤンのギターに注目の珍品
森一生監督の『月の出船』は歌手の〝バタヤン〟こと田端義夫のヒット曲を映画化した作品。正直なところ、森監督がこんな凡作を作っていたのかと衝撃を受けたものの、浪曲師の廣澤虎造が大フィーチャーされている点は高評価。また、バタヤンの持つギターが高価でレアものというのも音楽業界では有名なのですが、今作で彼が抱えるギターにも目が釘付けでした。そして先日惜しくも世を去った久我美子を見て涙。
月の出船 8月2日金 後6:00〜ほか 50:大映配給
マドロス歌謡で人気を博し、岡晴夫、近江俊郎らとともに戦後三羽烏と呼ばれたスター・田端義夫の主演映画。田端は、復員後船員の斡旋してもらう一方、亡き友人の妹と再会し愛情を育むも、さまざまな事象に巻き込まれる男を演じている。作中で歌声を披露するシーンはもちろん、当時田端と同じテイチクレコードに所属していた淡谷のり子が本人役で登場。ブルースを歌っている。映画と同名の楽曲は、映画主題歌として発売された。
こにし・やすはる◎1959年2月3日、北海道札幌生まれ。85年、ピチカート・ファイヴのメンバーとしてデビュー。以降、作詞・作曲・編曲家、プロデューサー等、音楽家として多方面で活躍。時間を見つけては名画座に足を運び、膨大な鑑賞数を日々更新している無類の映画ファン。