2025年は念願の『春興鏡獅子』を歌舞伎座の晴れ舞台で披露、10月にも歌舞伎座で大役『四の切』の狐忠信を勤め、大みそかを詩楽劇『八雲立つ』で締めくくり、充足した1年を送った尾上右近。
今年は大河ドラマ「豊臣兄弟!」に足利義昭役で出演し、さらなる飛躍を目指す彼が、新年最初に歌舞伎座に引っ提げて登場するのが、『蜘蛛絲梓弦』(くもいとあずさのゆみはり)(~1月25日)だ。
なぜ『蜘蛛絲梓弦』(くもいとあずさのゆみはり)だったのか。
「『蜘蛛絲』はある種古風味もあって、浮世絵の世界から抜け出したような、芝居小屋の感覚がある作品なんです。しかも今の時代のお客様にもわかりやすく、歌舞伎ならではのエンタメ性もあって、飽きさせない作りにできる自由度がある。なおかつこのかたち(型)じゃないといけないという縛りも少なくて、皆さん自分なりの型でなさってる。“じゃあ自分はどうしたいのか?”と言うと、僕がやらせていただくんだったら、『あの人がやってたあの型ね』っていうものでもなく、僕は基本的に混ぜこぜ俳優なんで(笑)、あの人の芸、この人の芸も…という良いとこ取りがやれるんじゃないかなと。逆に混ぜこぜ俳優って、誰にでもできることではないと思っているし、自分の意識の中にも“僕は自由だ”という感覚の一方で、確固たるこだわりがあったりもする。そのこだわりをいっぱい創っていくうちに自由じゃなくなっていってしまうんですけれども(苦笑)、そのこだわりを持つポイントを絞って、どこまでも自由でいたいなって思いながら、これまでも『春興鏡獅子』や『京鹿子娘道成寺』、狐忠信とか、そういう古典にものすごく重きを置いて自分の心血を注いできました。基本、創造性の底にあるのは“その色だけになりたくない”っていう反骨精神なんです。僕らの世代としても、自分の中のタイミングとしても、ぼちぼち自分なりのものをやらせていただく、そういうことをやっていきたいと思って、自由度の高いこの作品を選ばせていただきました」
ストーリーはこうだ。時は平安時代。物の怪が取りつく源頼光邸で家臣の碓井貞光と坂田金時が宿直して守護していると、童がお茶を持参。2人が怪しむと蜘蛛の糸を出して姿を消す。続いて薬売りと新造が頼光を訪ねて来るが、これらもすべて物の怪。物の怪を逃がして悔しがる貞光と金時。そこへ座頭が現れるが、座頭もまた物の怪であった。続いて太鼓持ちが現れるが、やはりこれも物の怪。頼光は傾城と逢瀬を楽しむが、傾城の様子がおかしくなり、頼光が斬りかかると、傾城は恐ろしい蜘蛛の精の本性を現す、という歌舞伎らしい筋立てだ。
約1時間ほどの舞踊劇で、これまで片岡愛之助は五役を、市川猿之助は六役勤めているが、右近は猿之助の『蜘蛛絲』が忘れられない、と語る。
「猿之助兄さんがなさってた『蜘蛛絲』っていうのは、僕の中では1番イメージが強いし、この作品を知ったきっかけでもある。やりたいことを全部詰め込んでいる、なんて面白いんだ、と。やっぱり亀治郎時代にはやらしてもらえないことがいくつかある中で、それをこの作品で満たすっていう、ハングリー精神とか、満たされない思いを叫んでる感じが見えた。すごいそこに尊さを感じたんですよ、僕は。僕がまだ浅草時代、20代だったと思います。その脇をまた同世代の獅童のお兄さん、愛之助兄さん、勘九郎のお兄さん、七之助のお兄さん、皆さんが出てるんですけど、もうみんなおんなじ気持ちで、この状況をさらに上に昇華させる、歌舞伎ドリームを“俺たちはずっと持っていくぞ”っていう何かそういう秘めた意気込み、エネルギーを感じたんですよね。だから今回、僕と同世代の坂東巳之助さん、中村隼人さんに出てもらえることも、自分の中では滅茶苦茶大きい意味があって、僕ら同世代とはいえライバルって感覚がまったくない。本当に不思議な関係なんです。だからこそ、今回の『蜘蛛絲』は同世代で描く作品だと思ってますし、僕の今の立ち位置だからこそできる『蜘蛛絲』にしたいなって気持ちでいっぱいです」
<続きは、TVnavi SMILE 56号をご覧ください。>
写真/西村彩子(SELF:PSY’S) 文/佐藤博之
1992年5月28日生まれ、東京都出身。05年、二代目 尾上右近を襲名し、18年、清元栄寿太夫を襲名。歌舞伎伴奏音楽の清元唄方も担う歌舞伎界の二刀流。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」に出演中。3月3~25日まで「花形歌舞伎 特別公演・曽根崎心中物語」(京都・南座)に出演予定。
