誰もが知る天才・葛飾北斎に最後まで寄り添い続けた、もうひとりの天才絵師・葛飾応為。北斎の娘・お栄として、江戸時代を軽やかに自由に生き抜いたこの人物を長澤まさみがかつてないほど魅力的に演じる。大森立嗣監督のもとに集結した3人のメインキャストのクランクアップ直後のコメントと共に、京都の撮影現場をリポートする。
10月17日(金)公開
2023年10月。前日までの雨も止みちょうどいい晴れ間が顔をのぞかせたまさに撮影日和に、京都の撮影所にて大森組『おーい、応為』はクランクインを迎えた。北斎の娘・お栄(画号=応為)と、北斎の知られざる約40年を描く年代記は、ほぼ順撮りで行なわれるという。初日となったこの日は、長屋のセットから長澤まさみ演じるお栄と、お栄の元夫・等明(早坂柊人)の激しい怒号が響き渡るというハードな幕開け。そこに監督の怒声も……!? 実は等明の絵師としての才能を見限ったお栄が、等明の絵をボロクソにけなし、それに等明が激高するという大喧嘩のシーン。結果「北斎の娘で悪かったな!」などと捨て台詞を残し、本当に家を飛び出し離縁してしまうというシークエンスなのだが、長澤=お栄の剣幕は凄まじい。最初はやや押され気味だった等明=早坂を煽るように、監督も一緒になって「大喧嘩だからね! 誰の金で飯食ってると思ってんだ!このヤロオッ~!!くらいの感じで」と叫ぶように演出。カメラを回す直前まで熱い演出は続き、夫婦喧嘩は修復不可能なまでの修羅場に発展していくのだった。いきなりハイカロリーなシーンからスタートした撮影だったが、「カット」がかかると長澤には笑顔も見られる。喉が心配になるレベルの熱演だったが、声が枯れることもなく無事このシーンは終了した。熱演に目を奪われがちだったが、改めて見るとお栄のルックも斬新。ぼさぼさにまとめた髪に、明らかに男物っぽい飾り気のない着物。帯の位置もかなり低めで、襟ぐりも大きく開いている。もちろん化粧っけもない。だが長身でスタイル抜群の長澤の着こなしは絶妙に粋で、メイクが薄いぶんきめ細かい肌の美しさも際立っていた。
午後からは善次郎役の髙橋海人も合流し、お栄と2人連れだって朝飯を食べにいくシーンへ。ドラマ「ドラゴン桜」以来の共演となる2人は気安い様子で、最初からにこやかに談笑。「時代劇やったことないんです。京都の撮影も初めてです」と言う髙橋に、「じゃあいろいろ楽しみだね」と笑顔で返す長澤。長髪で着物を少しだらしなく着崩している善次郎には大人の男の艶っぽさがあり、〝女好き〟という設定もあいまって髙橋の新たな一面を引き出してくれそうなキャラクターだ。善次郎にとってお栄は気心の知れた友。終始ヘラヘラとへりくだっているが不思議に下品な空気感はない。「弟っていうより手下みたいな感じでいってみて(笑)」という監督の言葉に「わかりました!」と声を揃える2人。その言葉通りおごってもらう身であるにも関わらず堂々と善次郎を従えて食堂に入っていくお栄と、ニコニコ笑いながら付いていく善次郎のコンビネーションはどこかほほ笑ましいものに。
<続きは、日本映画ナビVOL.119をご覧ください。>
文/遠藤薫
原作:飯島虚心『 葛飾北斎伝』(岩波文庫刊)
杉浦日向子『 百日紅』(筑摩書房刊)より「木瓜」「野分」
監督・脚本:大森立嗣 出演:長澤まさみ 髙橋海人 永瀬正敏 配給:東京テアトル、ヨアケ
10 月17 日公開 ©︎2025「おーい、応為」製作委員会