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INTERVIEW

小林幸子 芸能生活60周年スペシャル・インタビュー

今年、デビュー60周年を迎えた小林幸子。10歳でのデビューから苦節15年で「おもいで酒」大ヒット、今年7月に発売した話題の最新曲「オシャンティ・マイティガール」、そして常に前向きな心のありようについてまで、縦横無尽に語ってもらった。

 近年の小林幸子といえば、SNSに登場して〝ラスボス〟と呼ばれたり、ギャル風のメイクをして〝さちぴ〟に変身したりして世代を超えた人気を集めている印象が強い。

「10年くらい前に初めてニコニコ動画に出演した時は驚きました。私が出て歌が流れたら『ホンモノだ!』『歌ウメエ』『ラスボスだ!』とか画面がギッシリ文字で埋まって、これは面白いなと。もともと、ネット界隈でゲームの最後に出てくる強い敵と紅白の大きな衣装が似てるから『ラスボス』って呼ばれていたそうなんです」

 そうした活動の中で人工的に声を作り出したボカロ曲と出会う。11月8日放送の「宮本隆治の歌謡ポップス☆一番星」(CS歌謡ポップスチャンネル)では初音ミクの曲をカバーし、紅白歌合戦にも特別枠で出場した「千本桜」を披露する。

「ボカロ曲は最初、演歌とは遠い世界だと思ったけど、よく聴くと泣ける歌とかいい歌がいっぱいあるんですよ。メッセージソングという意味では演歌と同じなんです」

 そして100枚目のシングル「オシャンティ・マイティガール」は、ジャズの4ビートやラップ、演歌に昭和歌謡と、多彩なメロディーを詰め込んだ快作だ。

「昔からのファンクラブの人には口をポカンと開けている人もいますけど(笑)、10歳くらいの子は踊ってくれています。私もデモテープを聴いた時は冗談かと思いましたけど、もう1回聴いたら、この大変な時代に必要なのは愛なんだよっていうメッセージに気づいて。作ったのは私のことをよく知ってくださっている方で『いろんな楽曲を歌ってきた幸子さんじゃなきゃ歌えませんよ』って言われました」

 どんなジャンルでも成立するのは、その圧倒的な歌唱力ゆえだろう。歌手活動の始まりは10歳の時。9歳で素人の歌まね番組に出演し、作曲家・古賀政男に才能を見出されて「ウソツキ鴎」でデビューした。

「先生はお子さんがいらっしゃらなかったから『養女に』って言われたのを、母がそれだけはと断り、四谷三丁目のアパートで独り暮らし。古賀先生の事務所へレッスンに通い、チビと呼んで可愛がっていただきました。覚えているのは先生が『僕の歌が世の中に歌われなくなる日が早く来てほしい』とおっしゃったこと。そのときは意味がわからなかったけど、後で聞くと、戦後、道端でお腹を空かせている子がいっぱいいて、自分は何もできないけど、歌を作るとその子たちも歌うんですって。だから時代を奮い立たせる歌の力はすごいけど、そういう歌が無くても済む日本に早くなってほしいっていう意味だったと。今こうして話していても涙が出てきちゃうんですけど、古賀先生は曲の裏側に強い思いを込めて作っていた、本当にすごい先生だったんだなあって思います」

 デビュー曲は20万枚のヒットとなったが、その後はドラマの脇役を演じたり、キャバレーめぐりで歌ったりして家計を支えていた。そうした苦労の末、巡り合ったのが79年1月発売の「おもいで酒」だった。

「私にとって人生を変えた歌で、今ここまで守ってくれている歌です。最初はB面だったんですよね。でも伊東のホテル、ハトヤで歌ってたら、『おもいで酒』だけものすごい拍手が来るんですよ。そのうち会社から『有線で1位になってるよ』って電話がかかってきて。『それ、違う歌だと思うよ。〇〇酒って曲、多いから』って答えたくらい信じられませんでした(笑)。それまではキャンペーンに行っても、歌い終わると捨てられた歌詞カードを拾ってズタボロになって帰ってきていたのに、今度はみんなが私を見てくるんですよ。オリコンもちょっとずつ上がってきて、9月についに総合1位になって、紅白出場も決まりました」

 だが残念ながら、恩師の古賀は78年に亡くなった後だった。

「先生のお墓に報告に行きました。『あと1年早かったら、先生の前に報告ができたのに、申し訳ございませんでした』って。この歌は先生が最後に『チビ、頑張れな』って運をくださったのかなって思いますね」

 その後は「とまり木」「ふたたびの」「もしかしてパート2」「雪椿」など数々のヒット曲を生み、日本を代表する歌手に。今夏には新橋演舞場で60周年公演を開催した。

「そこにAIで作った10歳の私が出てきたんですよ。『これからの私、どうなるの?』って聞かれたときに、迷わず『引き返すなら今よ』って言っちゃいました(笑)。売れなかったし、お金もなかったし、新潟地震(1964年)で家が大きな被害にあったり大変なこともあったけど…。ブレなかったのは『歌が好き』ということ。あと何年したら売れるかも誰にもわからない中で、辞めずに続ける自分を選んできたのは、歌が好きだから。好きがあれば、どんなこともはね除けていけると思うんですよ」

どんなジャンルでも歌いこなす実力も苦労の中で培われた。

「キャバレーから仕事をもらったときに、『15歳』って本当の年齢を答えたら仕事がなくなったんで、次からは『18歳』って答えるようにして(笑)。ジャズなんか歌ったことないのに、聞かれたら『歌える』って答えて。耳コピで覚えるのは大変だったけど、その経験が今『ブルーノート』などでジャズライブをするのに生きてきている。だから『できません』とは言わないんです」

 その内側には、何歳になっても新しいことを面白がれる好奇心が潜んでいるようだ。

「ネットの世界に初めて行ったときは『どうして?』と蔑んだような言い方をする人もいました。だけどせっかくチャンスをいただけるならやってみないと。3年前に始めたYouTubeでも人生初めてのアルバイトを経験したりして、今が一番楽しいですね。もうそろそろ自分のやりたいことを、人にお伺いを立てずにやっていい年齢なので。面白がるのっていいじゃないですか、誰にも迷惑かけませんし。お陰様で声も出ますし、これからも歌い続けていきたい。まだ情報解禁できないけど、今後も面白くなりそうなことをいくつかやりますので、楽しみにしていてください」

 そんな姿を、天国の古賀はどう思って見ているのだろう?

「私もときどき、『何やってるんだ、この野郎』って怒鳴られるかなとか想像するんです。でもきっと『うんうん、チビ、よく頑張ったね。良かったな』って言ってくれて…いたらいいなと思ってるんですけどね」

こばやし・さちこ
1953年12月5日生まれ、新潟県出身。79年「おもいで酒」が200万枚を突破し、日本レコード大賞最優秀歌唱賞などに輝く。NHK「紅白歌合戦」には34回出場。YouTubeチャンネル「小林幸子はYouTuBBA!!」も大人気。

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