堺雅人×井川遥による50代のリアルな恋
11月14日(金)公開
鑑賞後しばらくたってからも、気付けばその映画のことを考えてしまうような作品がごくたまにある。本作はまさにそれで、心のどこかで今も切ない余韻を引きずり続けている。主人公の男女は中学時代の同級生で共に50代。それぞれが人生の苦味を味わい、いい具合にくたびれた頃、偶然地元で再会する。50代の性的な要素を含む色恋が“ファンタジー”かどうかは人それぞれだろうが、それでも静かに恋に落ちていく2人。特別にドラマチックなことは起きない。だが若い頃はひとくくりに“おじさん、おばさん”と思っていた50代にも、恋心や欲望はある。狭い町で同級生たちの好奇の目にさらされながらも、自分たちのペースで恋らしきものを育んでいく2人の姿は、あまりにもリアルでそれ故ずっと見ていたくなる。堺雅人がうまい役者というのは周知の事実だろうが、井川遥が自身のベストアクトを思わせるすさまじい芝居を連発。強い諦念をにじませるヒロインを、張りつめた美しさで好演している。
ここに注目! 土井裕泰監督最新作 映画ならではの仕掛けも
監督は『花束みたいな恋をした』の土井裕泰監督。日本映画では珍しい中年男女の恋愛を、リアルに繊細に描き切る手腕が光る。薬師丸ひろ子の名曲を物語のトリガー的に挿入したり、居酒屋の大将に名優・塩見三省を配するなど映画オリジナルの仕掛けも秀逸だ。
原作/朝倉かすみ 監督/土井裕泰 脚本/向井康介 出演/堺雅人、井川遥、坂元愛登、一色香澄、中村ゆり、でんでん、安藤玉恵、椿鬼奴、栁俊太郎、倉悠貴、吉瀬美智子、宇野祥平、吉岡睦雄、黒田大輔、松岡依都美、前野朋哉、成田凌、塩見三省、大森南朋 25年/118分/日本 配給/東宝
文/遠藤薫
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