藤井道人監督と木村大作キャメラマンが、舘ひろしを主人公に作り上げた映画『港のひかり』。本作で、元ヤクザの漁師に救われた少年時代を経て刑事になった青年・幸太を演じた眞栄田郷敦は、どんな思いを持ってこの作品に挑んだのか。いつか一緒に仕事をしたいと願っていたという藤井監督との仕事の感想や、役作りについて聞きながら、彼の俳優として、人としての魅力にも触れていく。
11月14日(金)公開
幸太を演じる上で大事にしたのは脚本には描かれていない十数年
堂々と立つカメラの前。時折自ら写真を確認し撮影の意図を解してポーズをとり、撮影が終わるとカメラマンと笑顔で挨拶を交わす。そしてインタビューのテーブルに着くと、力強い目でこちらをしっかりと見て「よろしくお願いします」と落ち着いた声でひと言。その1つ1つがくっきりと印象に残る男振りのよさに、いい緊張感が漂う。だがいざ話し出すと、その空気感はまたふわりと変わった。
話始めに「刑事役は初でしたよね」と声をかけると、「初めてじゃないですよ」と返答が。まさか間違えてしまっただろうかと慌てていると、周囲に確認しつつ「あれ違ったっけ?……すみません、やっぱ初めてだったみたいっす」と、彼自身がそこで初めてに気づくという何だか意外な展開に。一気に硬さを崩した照れくさそうな笑顔にほっこりしつつ、忌憚なく意見を伝えられる真っ直ぐさと、その飾らない言葉選び、壁や気負いを感じさせない屈託のなさに、早くも彼の人となりが感じ取れた。
眞栄田郷敦という人は、目の前にいるその人それぞれに、一対一の距離感で真摯に向き合える人だ。俳優としては2019年の『小さな恋のうた』から6年。その中でも彼が演じてきた役は、バンドマンの高校生にはじまり、最強不良チームの弐番隊隊長、帝国陸軍の狙撃の名手、美大を目指す男子高生、450年以上を生きるバンパイアと、映画だけでかいつまんで見ても実にバラエティーに富んでいる。ジャンルも青春もの、アクション、ホラー、人間ドラマとさまざまで、毎回次はその役をやるのか! と世間を驚かせながら、作品ごとに俳優として飛躍し続ける姿を見せてきた。
そんな彼が今回演じるのは、弱視を抱えていた少年時代に、過去を捨てて漁師になった元ヤクザの三浦(舘ひろし)とその正体を知らぬままに友情を育み、光を取り戻した後に刑事になった青年・幸太だ。本作への出演オファーを受けた際に惹かれたのは、「ほとんど全ての作品を見てきた」という藤井道人監督との仕事だったという。
「藤井監督とはずっと一緒にお仕事をさせていただきたいなと考えていたので、オファーを頂いた時は本当に嬉しかったです。その上、今回は木村大作キャメラマン、主演の舘ひろしさんともご一緒できるということで、わくわくしました。脚本を読むとやっぱり藤井さんらしく骨太で、展開も面白くて。ちょっと難しい役どころでしたが、チャレンジしたいなと思いました」
少年時代の幸太を演じる尾上眞秀から引き継いで演じる役どころでもあったが、どんな点を大事にしていたのか。
「先ほど刑事の話が出ましたが、演じる上ではそこはそれほど意識していなくて。それよりも脚本には描かれていない、少年時代から大人になるまでの間の十数年という時間を考えて演じることのほうが大事だと思っていました。なので、眞秀くんの雰囲気を意識しつつ、〝おじさん(三浦)〟に見せられた強さや優しさを、ずっと追いかけてきた人物としての説得力みたいな部分を表現できればいいなと思っていました」
その上で髪型なども考えていったという。
「衣装合わせの際には髪型が決まっていなくて『自分が思う髪型でいいよ』と言われたので、眞秀くんのビジュアルとかも見つつ、大人になったらどんな感じかなと想像しました。その上で、刑事だしちょっと短めにさっぱりした感じにしようかなと思い、あの髪型になりました」
主演の舘ひろしにはどんな印象を抱いていたのか。
「舘さんは共演する前からカッコいい人だなと思っていたし、こんな大人になりたいなという憧れを持っていた方でした。実際に会ってみると、それに加えて柔らかさや優しさ、気遣い、ユーモアがある本当に魅力的な方で。現場では食事に誘ってくださることも多く、いろいろなことを教えていただきました。舘さんご自身はアドバイス的な感じで話をしているわけではなく〝自分はこう思ってる〟ぐらいのテンションで話してくれるんですけど、すごいなと思う話ばかりで興味深かったです」
特に印象に残っているのは、昭和世代ならではの破天荒な経験談や役者としての心構えについてだと明かす。
「舘さんの人生経験などを聞いていると、今の時代だととても真似できないなと思うことも多かったんですけど(笑)、男としても役者としても、いろんな意味で刺激を受けました。会話の中に出てきた『役者は芝居じゃない』『人は不安定なものに目がいくもの』『大事なのは存在感』といった言葉も印象に残っています」
<続きは、日本映画ナビVOL.119をご覧ください。>
写真/竹中圭樹(アーティストフォトスタジオ) 文/深田尚子 ヘア&メイク/MISU(SANJU) スタイリスト/MASAYA (PLY)
2000年1月9日生まれ、アメリカ・ロサンゼルス出身。19年映画『小さな恋のうた』で俳優デビュー。近作に映画『ゴールデンカムイ『』ブルーピリオド(』24年)『ババンババンバンバンパイア』(25年)、テレビドラマ「366日」(24年)など。現在連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)に出演中。映画『カラダ探し THELAST NIGHT』が公開中。『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』(26年3月13日)が公開待機中。