生粋の社畜人・薮隣一郎を通して、仕事と人生への向き合い方を問うファンタジーコメディー、BS松竹東急 金ドラ「社畜人ヤブー」が毎週金曜よる10時30分より放送中だ。那智泉見の同名コミックをドラマ化した今作で、連ドラ初主演に挑む新納慎也に、役のこと、仕事のこと、俳優としてのあり方などを聞いた。
毎週金曜 後10:30~11:00 BS松竹東急
愛社精神100%、そのブラック具合を〝残業は会社からのおもてなし〟〝クレームはお客様からのラブコール〟などと超ポジティブにとらえて邁進する営業マン・薮。第二新卒で入社した倉良優一(須賀健太)やその同期・高柳星翔(髙松アロハ)らにとっては、薮はとてつもない驚異で、圧倒され続ける困りものの上司だ。薮を演じる新納は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」や連続テレビ小説「ブギウギ」「おむすび」など多くの作品で印象深い役を演じる、個性派で名高い名優。
「破天荒な役をいただくことは多いのですが、常に気を付けているのは〝その世界観の中でのリアリティー〟です。何をやっても許されるような役だからこそ、ドラマのテイストを超えないギリギリを考える。それは、この作品に限らずですね。今回は監督の要望で、薮は原作よりもちょっとハイテンションですが、リハーサルを重ねながら、世界観に合わせたバランスをとっていきました」
新納自身は、薮の考え方に全面的に共感するとか。
「今の時代は、コンプライアンスの考え方がちょっと極端すぎると思うんです。ワークライフバランスとか、権利だけを主張したりとか、今は振り回されてる迷走期かなって。薮さんのように、仕事を全力で愛することの何が悪いんだと思いますよ。まあ、サービス残業とか、薮さんはちょっと行き過ぎてますけどね(笑)。仕事はしなきゃいけないし、生きている大半を仕事に費やすわけですから、楽しんだほうが絶対に人生が豊かになります。それを、昭和の頑固オヤジが部下に叩き込む形ではなく、理想のビジネスマンが後輩を指導するふうに見えるよう、言葉使いや動きを品よく、エレガントにすることには気を付けました」
それは俳優という仕事にも重なる。
「俳優は基本、仕事が無いのが怖い。とにかく仕事をしていたいので、土日休みたいとか午後5時には帰りたいとか、僕は言わないです(笑)。会社勤めの方とは状況は違いますけど、薮さんは僕らの考え方に近いんだと思います。仕事が好きで、仕事こそが自分の生きる意味だと思っている彼に、僕は何の違和感もなかったです」
撮影は1クール全話を驚異的なスピードで終わらせたという。
「スケジュールは本当に大変でした。須賀健太と手を取り合って『いま寝たら死ぬぞ!』って言い合っていたくらい(笑)。みんなで助け合いながら乗り越えた感じです。でも、その分みんながハイになって、和気と笑いあっていました。回りだした歯車は止まらないという勢いが必要だった作品なのかなと思います」
放送済みの第3話までの中でも、 〝社畜の園〟や薮のヲタ芸など、印象深いシーンが数々あった。
「社畜の園は、普段のオフィスと全然違っていて、照明も衣装もすごく凝ってくださるから、時間がかかるんですよ。でも基本、倉良(須賀)の妄想なので、僕もむちゃくちゃやってます。全然似てない物真似をしたりとか。それを監督がオッケーしてくださるんですよ(笑)。ただの企業モノではなく、笑える作品だとわかる気分転換のシーンですね。ヲタ芸は、ダンスが早すぎて『覚えられない!』と思ったんですが『そこに(ダンスに慣れてる)超特急の高松アロハがいるじゃないか』って(笑)。彼がすぐに覚えて教えてくれました。でも『手はこう!』『間違えてる!』って、怖い先生でした(笑)」
第4話以降の展開は、少し違ったテイストも入るとか。
「薮さんのライバル的な人が登場したり、薮さんの働き方が追い込まれていったり。それを倉良が見て何かを感じていくという、けっこうシリアスで奥深い物語もあります。ただ、そんなに重いテーマではなく、軽く楽しく見ていただけると思います」
薮もそうだが、癖の強い役をキャスティングされがちな自身については「なんでやろ?」と不思議に思っているという。
「僕はすごく常識人として生きてます。ちょっとヘンテコな部分は確かにあるかもしれないですけど(笑)、舞台にもドラマにも、すごく真面目に向き合っているほうだと思いますよ。それが〝異端児〟とか言われて(笑)。とても楽しくやらせてはいただいてますけど、『めっちゃいい人の役も、悲しさ溢れる役もできるんです!』とプロデューサー諸氏にはお伝えしたいです(笑)」
以前、ドラマの悪役で共演した段田安則に「僕こんなにええ人なのに、悪役ばっかりなんです」と愚痴ったところ、段田は「俺もや。でもこういう役は腕がないとできへん。だからキャスティングされてんねやと思っとこ」と答えてくれたという。まさにその通りで、個性的な役こそ芝居力がなければ成立しないわけで、現在の立ち位置はその証拠。だからこそ、より幅広い役柄の新納を見たくなるのは自明の理だろう。
「ただ、今は視聴者の方が僕を見ると『ただのいい人では終わらないだろう』と思ってくださるみたいで(笑)。今後はそういう期待も裏切っていきたいです」
今作では自身の未知の領域も自覚した。
「実は同時期に別のドラマも撮っていて、そちらもものすごいの量でした。年を取ると台詞が覚えられなくなると先輩俳優から伺っていましたが、今回はめっちゃ覚えられた。まだまだ伸びしろしかないんだという自信になりました」
そんな新納だが、幼いころから俳優になりたかったわけではない。
「16歳からモデルをしてましたが、モデルは服が主役なので、表現をしたい僕には向いていませんでした。だから俳優になりましたが、実は僕、いま転職サイトに登録してます(笑)。でも今は、お芝居以上に面白いことが見つけられない。それに、パソコンのパワーポイントを使えないので、適正チェックで出てくる職がほとんどなかったんです(笑)」
ただ、芝居に親しむ機会は幼少期からあった。
「小さいころは鍵っ子で、近所の映画館に入りっていました。当時は入れ替え制ではなかったので、子どもは安い金額で1日中映画館にいられたんです。いま思えば、は仕込まれていたんでしょうね。あと、高校の文化祭で劇を作ったのが楽しかった。みんなで1つのゴールに向かってモノ作りをする世界観が好きでした。それがずっと続いてほしくて俳優をはじめたのかもしれません。舞台で芝居の面白さを知って、30代半ばから映像をはじめて、今まさにその面白さを味わっている最中。役者をやり続けるしかないなと思っています」
1975年4月21日生まれ、兵庫県出身。1997年から2年間、NHK-BS2「にこにこぷんがやってきた!」のうたのおにいさんを務めた。大河ドラマ「真田丸」(16)で注目を集め、「鎌倉殿の13人」(22)にも出演。連続テレビ小説も「ブギウギ」(23)「おむすび」(24)と続いている。近作は、映画『はたらく細胞』、舞台「プロデューサーズ」、ドラマ「アイシー〜瞬間記憶捜査・柊班〜」(CX)など多数。4月期は今作のほかに、ドラマ「人事の人見」(CX)にも出演中。