IMP.のセンター、佐藤新が『青春ゲシュタルト崩壊』で映画初主演。10代の繊細な感情の揺れ動きを描いた同作で、まるで新緑のように力強く、かつ鮮やかに芽吹いた彼の演技の裏側とリアルな心境に迫った。
6月13日公開
2016年から開催されている小説コンテスト「野いちご大賞」で第回大賞を受賞した丸井とまと原作の小説「青春ゲシュタルト崩壊」は、年に単行本化されるやいなや若い世代を中心にTikTokで話題となり、物語上で描かれる等身大の学生ならではの悩みに共感の声が続出。特に〈個性を押し殺し、他人に合わせて自分を見失うこと=自分の顔が見えなくなる〉と表現される今作中の架空の症状“青年期失顔症”になった女の子が新たな出会いを経て成長していく物語に高い評価を受けている。
そんな話題の青春物語が実写映画化され、6月13日に公開。青年期失顔症になった高校2年生のヒロイン、朝葉(渡邉美穂)の異変にいち早く気付いて寄り添う主人公、聖を佐藤新(IMP.)が演じる。「もう本当に内容がリアルで、台本を読んでいる時もページの頭から終わりまで、ずっと心臓にグサグサ、グサグサと刺さってきて…。自分がこの作品の役を演じるってことを忘れちゃうぐらいにのめり込んじゃっていて、読み終わった後に初めて『そっか、これを僕がやるんじゃん』みたいな(笑)。友達が理想とする自分を演じなきゃと思って、それで周りが笑顔になってくれたら、この自分を続けていかなきゃって思っちゃう。そういうつらさって、本当にありますよね。僕も小中高の時は自分の意見を言うだけで心臓がバクバクしすぎて頭が真っ白になったし、周りに合わせちゃうことが多い子だったから、朝葉の気持ちが痛いほどわかりました。青年期失顔症っていう症状が本当にこの現実世界でも存在していたら、もしかしたら自分もなっていたかもしれない。存在しなくて本当に良かったなって思っちゃうぐらいにすごく共感性の高い物語だなと思いましたし、同時にすごく繊細な感情表現が重要になってくるだろうなって思いました」
佐藤が演じる聖は中学までは水泳部に所属していたが、ある理由で退部。高校からは髪を金色にして自分の思ったことをズバズバとハッキリと言うが、誰かの痛みに敏感に気付いて気に掛けることもできる心優しい少年でもある。
「聖はすごく芯の強い子で自分の意見を持ってもいるけど、人間関係でうまくいかないことがあると弱くなっちゃうところがあって。そういう少し不安定なところは自分とも重なる部分があったので、結構スッと役が入ってきたというか。もしかしたら原作の聖とはちょっとイメージが変わるかもしれないですけど、それでもプロデューサーや監督さんや渡邉さんとも話し合いながら、お客さんに『これはこれで聖だな』って感じてもらえるような映画版の朝比奈聖を作り上げていったつもりです。どちらかというと自分が朝比奈聖になりきるというよりは、佐藤新が朝比奈聖だったらっていう考え方に変えてみたというか。元水泳部だったということで泳ぐフォームなども練習したし、あとは金髪になったのが自分の中では大きかったです。金髪で制服を着て、学校にも実際に行ってみたことで、より役に入れたかなって。使わせていただいている高校の生徒の皆さんがエキストラで出演されていたこともあって、『こんなキラキラでピッチピチな中で僕は本当に馴染めてるのか!?』って思いながら撮影に臨んでいた部分もあるにはありますけど(笑)。でもこんなにもいろいろな面で役作りをしたのは初めてだったので、すごくやりがいのある役でした」
そんな頼もしいコメントをする佐藤だが、一方で「ソワソワしています。予告映像を見ただけで、もう心臓がバクバクしてきちゃって。予告だけでこんなふうになっていたら、俺、試写会ではどうなるんだ? さらに公開初日になったら、もうこれどうなっちゃうんだ!?って、かなりヤバいです…(笑)!」と不安を口にする。
「朝葉役の渡邉さんが本当にすごくいいお芝居をされるので、撮影が始まったばかりの頃は『僕も渡邉さんの横に並べるくらいのお芝居をしなきゃ』って力が入りすぎてしまって。結果、空回りしちゃって悪循環というか、あまり良くない状態になってしまっていたんです。小説寄りで見ると聖は悪ガキっぽいところもあるので、そうしようと頑張ってみたこともあったけど、今の僕がそれをやろうとすればするほど、あんまりいい方向に行かなくなっちゃって。一時は考えすぎちゃって本当に煮詰まっていたんですけど、そんな時にプロデューサーや監督が『そんなに思い詰めなくていいよ。もっと力を抜いてやってごらん』『俳優さんは、みんな通ってきた道だから。大丈夫だよ』といった温かい言葉を掛けてくださって。それを聞いて少し落ち着いてからは、渡邉さんの言葉を受け取った後のお芝居が自分の考えていたニュアンスで出てこなかったとしても『これはこれで、もう1つの正解だ』って思えるようにしたというか、なったというか。きっとデビュー1年目でいきなり映画初主演っていう立場を与えていただいたことで気合いが入りすぎて、“うまくお芝居をしよう”ってしすぎていたんだと思います。でもスタッフさんの言葉のおかげで冷静になることができましたし、結果的には自分にできる精一杯の朝比奈聖を出すことができたかなって感じていますね。悪ガキなところが、どちらかというとツンデレに近くなったかなと。すごく思い出深い作品になりましたし、公開前も、公開後も、愛情をたくさん注いでいきたいなって思います。本当にやって良かったなって思うし、もっとお芝居が上手になってまた同じスタッフさんとご一緒できるように。そしてカメラを通して自分を見てもらった時に『成長したな』って思ってもらえるように頑張らなきゃなって思った作品です」
それほど大事な作品になったからこそのソワソワでもある?
「そう(笑)! 朝葉は泣くシーンも多かったから、同じシーンを4方向から撮らなければならない場合、4回泣かなきゃいけないわけじゃないですか。渡邉さんはその4回共を全く同じエネルギー量で、なんなら超えてくる勢いで演じられるので、本当に素人みたいな感想になっちゃうんですけど『すっげぇ!』ってなりましたね。ちょっともう自分とはステージが違うお芝居を間近で食らって気を引き締められたことがいっぱいありましたし、刺激しか受けなかったし勉強にもなりました。自転車で二人乗りをするシーンでは、渡邉さんがアドリブを効かせてくれたおかげでリアルな会話が成立したこともありましたし。おかげで自分からも『僕、このセリフをこう言いたいんだけど大丈夫?』という感じで渡邉さんに相談したり、自分なりに語尾や言い方のニュアンスを変えながらやったりした時もあります。渡邉さんはそのたびに柔軟なお芝居で返して助けてくださっていましたね」
<続きは 日本映画ナビvol117をご覧ください。>
写真/小林ばく 文/松木智恵
監督:鯨岡弘識 脚本:三浦希紗
出演:佐藤新(IMP.) 渡邉美穂/田辺桃子 、新井美羽 、水橋研二 、濱田龍臣 、藤本洸大 、河村ここあ 、福室莉音、 愛来、戸田菜穂 / 瀬戸朝香
配給:NAKACHIKA PICTURES 6月13日公開
©映画「青春ゲシュタルト崩壊」製作委員会
2000年9月1日生まれ、東京都出身。近作に『わたしの幸せな結婚(』23年)『春の香り』(25年)などがある。