緑豊かな自然に囲まれた小さな村を舞台に描く、ちょっと不思議で切なく優しい青春映画『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』。18歳から20歳になるまでの間に一度だけ魔法が使えると知って悩む4人の男子高校生の中の一人・ユキオを演じるのはIMP.の椿泰我だ。「とても穏やかな気持ちで見ていただけると思います」と太鼓判を押す彼に共演者との撮影エピソードや自身の芝居について、またグループ活動への思いなどを聞いた。
2/21公開
昨年の3月31日をもって放送作家業・脚本業を引退した鈴木おさむが脚本を担当し、2019年の初演以降に幾度も再演されてきた朗読劇『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』が待望の映画化。“この村で生まれた男は18歳から20歳になるまでの間で、一度だけ魔法を使える”ということを秘密裏に知らされた4人の高校3年生がどんな選択をするのかが描かれるもので、椿泰我はその中の一人、ユキオ役を演じている。普段は7人組男性グループIMP.の“元気印”。グループ内では、衣装担当なども行なっている。今作は彼にとって久しぶりに足を踏み入れた本格的な映像での芝居になったが、最初にこの話を聞いた際は一体どう感じたのだろう。
「『高校生の青春映画に俺が? ウソつけ』というのが素直な最初の感想でしたね(笑)。メンバーも驚いていましたし、しばらくはドッキリだろうなと思ってました。でも思ったよりも話がどんどん進んでいって、3月の(事務所所属のアーティストが一堂に介したライブ)『to HEROes 〜TOBE 1st Super Live〜』のMCでも『映画に出ます』と発表したので、もういよいよ本当に出るんだなって。そこからは何本かの青春系の作品を見て勉強しながら『俺、キラキラするんだ…』って思ってました(笑)。元気印のキャラも一旦は忘れないといけないなと思っていたら、意外とユキオも元気な役ではあったので良かったです。ただほかのキャストには本当に美しい面々が揃っていたので浮かないようにというか(笑)、あまりにも元来のキャラが漏れ出ちゃわないように、いい案配で頑張ろうという気持ちで挑みましたね」
ユキオと共に一度きりの魔法が使えると聞くのは、八木勇征が演じる主人公のアキトとハルヒ(井上祐貴)とナツキ(櫻井海音)。命に関わること以外だったら何でもえられるという話を最初は笑い飛ばす4人だったが、父親たちもかつては魔法を使っていたと聞くことで次第に本気で魔法の使い道を考え始め、同時に今後の自分たちの人生にも向き合っていくことになる。
「最初は日本の映画で魔法というものをどう表現するんだろうと不思議だったんですけど、監督の木村(真人)さんにお会いした時にロケーションの写真を見せていただいたり、魔法の表現の仕方をお聞きしたりしたことで納得しました。自分の中では勝手にCGチックというかファンタジーなものを想像していたんですけど、逆にあえて魔法っぽく表現されていないからこそきれいに映るというか。青春や人間同士の葛藤といった部分も表現されている作品なので、純粋に魔法というワードにとらわれすぎずにお芝居しようって思いました」
美しい映像の中で繰り広げられる4人の繊細な感情の波は、椿の言うように“魔法”というインパクトのある言葉をも超えて見る側の心を強く揺さぶる。その証拠に顔合わせ時に行なわれた本読みの時点でも、すでにキャストたちの目には涙がにじんでいたそうだ。
「最初は普通に読んでいたんですけど、すごく強い台詞が随所にあるせいか徐々に感情が入っていって、後半にはみんな泣くっていう(笑)。それも大量に泣いたというよりはウルッという本当にリアルな涙だったんですよね。本読み後はみんなが『ドッと疲れた』と言っていて、それぐらいにすでに感情が心から動いているお芝居ができたなっていう感覚を味わえました」
ユキオはムードメーカーで天真だが、自分の父親(カンニング竹山)が抱えていた意外な秘密にショックを受けて思わず怒りをあらわにする場面もある。
「本番前に監督に『人ってどうやって怒るんですか?』って聞いたんです。僕は人に声を荒げたことがあんまりなかったから、どうやって荒げるのが自然なのかなと思っちゃって。でもユキオはお父さんを嫌いにはなれなくて、本当は怒りたくないって雰囲気もちょっとあった。そういう人間性は自分とも少し近い部分があったので、怒るという感情の作り方を一から学びながらも何とか演じられたのかなって思っています。竹山さんとの撮影は1日だけだったんですけど、休憩時間にも2人で一緒にソファーに座ってお話しました。結構重めなシーンを全部この日に、しかも深夜に及ぶぐらいの時間まで撮影していましたけど、竹山さんが本当にずっとめちゃめちゃ優しかったです」
またユキオは工作部の部員・ミズホ(工藤美桜)に淡い恋心を抱く役どころでもある。
「監督から『ここが唯一のラブシーンだよ』って言われて『本当にラブシーンか…?』って(笑)。でもユキオっぽいというか、椿泰我っぽくもある恋模様で良かったなとは思います。ほら、なんかいいじゃないですか。ふかんで見ていたらどう考えてもミズホが好きになる相手は僕じゃないのに、勝手にルンルンしている感じが(笑)。ユキオを見ていると『お前、だよな』ってなると同時に、その高校生らしさに『ふふっ』ともなると思います。これでもっと刺激的なシーンがあったとしたらきっとかなり身構えていたと思うので、僕の中ではちょうどいい案配でした(笑)」
4人で集まって魔法を何に使うかを話し合うシーンは長回しで撮られ、アドリブも多く飛び交っていたそう。
「この撮影をきっかけに、一気に4人の一体感が生まれたような気がしました。あとその日に勇征くんがカフェカーの差し入れをしてくれたんですよ。『こんなオシャレな差し入れがあるんだ、かっけぇ! 同い年か、頑張んなきゃ…』ってなりましたね。合間には(八木が所属するダンスボーカルグループ)FANTASTICSのライブの話もしました。自分はIMP.の衣装を担当させてもらっているんですけど、勇征くんと初めて会う前にインターネットで調べさせてもらったら、FANTASTICSのライブ衣装が、めっちゃかわいくて! だから『この衣装はどうなってるの?』『ライブは、どうやって作ってるの?』『新曲はどうやって決めてるの?』という感じで、たくさん教えてもらいました。ちなみに僕は勇征くんから『ばっきー』と呼ばれているんですけど、そう呼ばれ始めたのは確かこの作品の打ち上げか、それよりももう少し前からだったような気がします。勇征くんからは『ファンのみんなからは「ゆせ」って呼ばれてる』って言われたんですけど、俺がいきなり『ゆせ』って言うのは、なんか…甘えてる感があるというか、くすぐったい気がして(笑)。『でも「八木くん」も違うし、なんて呼べばいい?』『勇征でいいよ』『じゃあ俺も「ばっきー」で』という感じで呼び方が決まりました」
〈続きは、日本映画ナビvol.116をご覧ください。〉
写真/小林ばく 文/松木智恵 ヘアメイク/大森創太(IKEDAYA TOKYO) スタイリスト/山本隆司
1998年2月10日生まれ、神奈川県出身。現在、IMP.のメンバーとして活動中。