無類のゲーム好きで知られる二宮和也が世界的な人気を誇るゲームの映像化作品に主演した。その映画『8番出口』は、地下鉄通路に閉じ込められた男を描くサスペンスフルなドラマ。菅田将暉主演の『百花』で監督デビューを飾った川村元気監督と脚本段階からタッグを組み、試行錯誤を重ねながら世界観を組み上げていったとのこと。まさにゲームプレイヤーがゲームマスターを兼ねたような注目企画。果たして、そこにはどのような思いが込められていたのか。彼なりの「出口」にたどり着くまでの経緯を存分に語ってもらった。
8/29公開
映画『8番出口』において、二宮和也は主演だけでなく、「脚本協力」という肩書きも得ている。脚本の初期段階から、演じるキャラクターを作り手側と協議しながら作り上げる経験は、彼の作品歴でも珍しい体験だったと言っていい。
「この映画の題材自体を知っていたので、それをどうやって映画化するのかということに興味がありました。オファーが届いた時点ですぐに『やります』と言って、台本作りに入っていったんですけど、一緒に本作りにまで参加したのは確かに初めてのことかもしれないです。すごく楽しかったですね。『どうやったら面白く見てもらえるんだろう』と、いろいろあーだこーだ言わせていただいた感じなんですけど(笑)、監督たちと一緒に楽しくものを作ることで〝新しく見える作品になったらいいな〟というのはずっとありました」
同時に、この主人公像には等身大の二宮和也が刻まれている。現在の彼自身が感じられるといってもいい。川村監督によれば、あえて二宮本人の特徴や背景が生かされたという。その点も二宮からすれば新しい。
「今回に関しては、最初の脚本段階からいろいろ意見を言うことになるだろうなと思っていました。というのも、大半のシーンに登場するのはほぼ僕1人で、僕が成立しないと映画が成立しないんです。それもあって、脚本段階から参加するという手段をとらせていただきました。戦争ものや学園ものの場合だったら、大勢の中の1人を演じるということで済むんですけど、主要人物が僕1人となると、監督、脚本家、僕の三方からそれぞれ〝自分はこう思っている〟という意見が出てきたりすると現場が先へ進まないので。映像的にも見た目が変わるわけではないし、同じ場所をずっとループしているお話ですので、最初から〝出口〟が1つになれるように、そういう協力をさせていただいたまでといいますか。ただ、僕自身は〝自分自身を役に投影する〟みたいなことはあまり意識していなかったですね。そこに関しては川村監督に任せていたかもしれません」
企画への早期参加には、それでなくとも作品への強い思いが感じられる。
「映画の本筋みたいなものには僕からはあまり言っていない気がします。僕が加わる頃にはざっくりとした物語は出来上がっていましたので。言ったのは、それ以外の、たとえば『この周回では何をするか』とかですね。撮影現場で『今日は1周目から3周目をやります』となると、その間の周回ではどういう〝波〟を作っていくのかとか、それがいらないのかどうか、とか。そういうことをみんなで考えながらやっていましたね。もちろん、台本はあるんですけど『6周目に○○があるから、3周目で○○をやっていこう』とか。そういうことをずーっと現場でやっていた感じです。それこそ監督だけでなく、カメラ、照明、録音部の人も含めて。そのうち、現場ではみんな台本を読まなくなってきて(笑)、毎回、相談しては出てきたアイデアを揉んでみて、一回チャレンジでやってみて、監督に見てもらう、みたいなことになって。『この周回、台本には異変があるように書いてあるけど、とりあえず無視するか』とか(笑)。最初の〝観客〟は監督なので、まずは監督が楽しんでくれればOKかなと(笑)。監督も楽しんでくれたみたいです。その意味では、この現場は自由度が高かったですね。それは僕にとってありがたいことでした」
二宮といえば、台本を丸々暗記するのではなく、ほぼ自身が関係する部分のみに目を通して現場に臨んできた人。それが今回は企画の出発時から作品全体を細かく見渡したわけである。
「〝あ、台本ってこうやって作るんだ!〟みたいなこともわかりました(笑)。でも、この映画だったからできたというのはあるかもしれません。さっきお話ししたとおり、現場でどんどん変えていったので、台本自体は1回しかちゃんと読んでいないんじゃないかな。(台本が)出来上がった時に読んで〝これでいいね〟となって、あとは現場でずっと『看板、ポスター、おじさん……』みたいに(異変の確認を)やっているだけなので、これなら台詞も覚えなくていいか、みたいな(笑)。目の前に見えているものを口で言っているだけですからね。ほぼ自分独りだし、もしかしたら今までで一番台詞覚えをしていないかもです(笑)。間とか展開を自分のタイミングだけで仕掛けていけましたし。最初は『1人でやるのって、どうなるんだろう?』って思っていたんですけど、スタッフさんが優秀だったのでホントに楽で。だから(劇中でほかの人との芝居場が出てくると)、人と芝居をするのってこんなにムズいんだと思い知りました。『あれ、今までお芝居ってどうやっていたんだっけ?』みたいな。そういう気づきもありました(笑)」
<続きは、日本映画ナビVOL.118をご覧ください。>
写真/太田好治 文/賀来タクト ヘア&メイク/金山貴成 スタイリスト/福田春美
『8番出口』原作:KOTAKE CREATE
「8番出口」監督:川村元気 出演:二宮和也、河内大和、浅沼成、花瀬琴音、小松菜奈
8月29日公開 東宝配給
©2025 映画「8番出口」製作委員会
1983年6月17日生まれ、東京都出身。99年に嵐としてCD デビュー。演技面では近作に映画『ラーゲリより愛を込めて』(22年)『アナログ』(23年)『【推しの子】-The FinalAct-』(24年)、テレビドラマ「ブラックペアン」シリーズ(18、24年)など。現在、連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)に出演中。