歌舞伎座では、この5月より2カ月に渡って「尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎 尾上丑之助改め六代目尾上菊之助襲名披露」興行が行われ、菊之助が八代目尾上菊五郎を、菊之助の長男・尾上丑之助が六代目尾上菊之助を襲名。誰もが認める芸への勤勉さと涼やかな風情を誇る菊五郎に、11歳の若さでの襲名となる息子・菊之助とともに話を聞いた。
5月29日(木) 後5:45~ 衛星劇場
——歌舞伎をやるには芸事が必須ですが、菊之助くんの今の習い事は?
菊五郎 習い事は3歳ぐらいから、日本舞踊だったよね。
菊之助 最初に尾上菊之丞さんに習って小学生になったら藤間のご宗家に教えていただいているよ。太鼓と鼓は三年生頃からお稽古始めたよね。
菊五郎 あとは観世銕之丞先生のところで、お能のお仕舞(能のいち場面を面や衣裳を用いずに謡(うたい=声楽)のみで舞う)。
菊之助 あと清元も。
菊五郎 そうか。清元(三味線)、お能、お囃子、踊り、踊り。今は5つだね。私の時はそれに長唄の三味線をプラスしたくらいだから6つか。
菊之助 義太夫も習ってる。
菊五郎 お父さんは、竹本咲太夫師匠のもとへ義太夫を習いに行くようになったのは20歳を越えてから。時代物の役をさせていただいた時、師匠にお話をうかがって、お稽古をしていただくようなったんだよ。和史(菊之助)の稽古に一緒に行って、終わってから2人で復習をしているけれど、和史は復習をすることを嫌がらなくてそこが偉いね。次の稽古に向けて準備をするということが自然と身についているのだと思うよ。芸道の精進は積み重ねだと思うから一緒に頑張ろう。
菊之助 じゃあパーフェクト(笑)?
菊五郎 パーフェクトじゃないけど(笑)、ちゃんと稽古していると思います。
——菊之助くんは菊五郎さんが出演する演目は基本すべて見ているそうですね。これまでで一番興味深い演目は?
菊之助 お父さんがやった役では『俊寛』が好き!
菊五郎 お父さんは菊之助が演じた役で特に好きなのは『盛綱陣屋』の小四郎。そして『鼠小僧』の蜆売り、『藤戸』の浜の童、和吉も素晴らしかったよ。
菊之助 小四郎もまたやりたい!
父親と息子であり、師匠と弟子の関係でもある2人。そのバランスは難しいに違いないが、生まれつきその両方でつながっている2人はとても自然に教え、教わり、甘え、甘えられる関係を構築しているように見える。
——2人はとても親密に見えますが、それぞれの長所と直してほしいところは?
菊五郎 (菊之助は)お稽古での集中力は素晴らしいと思うよ。
菊之助 お父さんの長所は勉強熱心で、いつもいろんな資料やDVDを見て、ものすごい勉強してるところ。直してほしいところは、舞台終わりで疲れて家に帰って来た時に少し怖い感じがする。ちょっとしたことで小言を言ったりするから、あんまり疲れないでほしい(笑)。
菊五郎 そうだね(苦笑)。遅くまで舞台に出ている時があるから、家だと少し余裕のないところを見られちゃっているね。精進します!
菊之助 僕の直して欲しいところは?
菊五郎 集中するまでの時間が短いとよいかなぁ。〝よーいドン!〟って走り出すまでの時間が結構かかることがあるからね。
菊之助 特に何に対して?
菊五郎 勉強も稽古も割とそうかなぁ。
菊之助 稽古はちゃんとやってるよ! 確かに勉強は始めるのに時間がかかるかな…。
菊五郎 でも両方とも一生懸命頑張っているね。あきらめず、投げ出さずに、やり始めたら最後までやり遂げるという姿勢は素晴らしいと思う。
襲名が決まってからの2年間、菊之助は稽古稽古で連日大変だった。多忙を極めるなか、菊之助が歌舞伎以外で夢中になっていることがあると菊五郎は言う。
菊五郎 菊之助の去年一番嬉しかったことはMrs. GREEN APPLEのファンクラブに入ったことでしょう!?
菊之助 うん。クラスでもMrs. GREEN APPLEが大好きな人は多くて。コンピュータの授業で、みんなの好きなアーティストを聞いた日があったんだけど、その時クラス31人中、4人以外は全員Mrs. GREEN APPLEが好きだった。
菊五郎 菊之助の影響でお父さんもよく聴くようになったよね。
舞台上、稽古中は音羽屋を背負う2人だが、こんな何気ない会話はどこにでもいる微笑ましい父と子そのもの。多くの看板役者たちも花を添える襲名という大舞台の開幕はすぐそこだ。
文/佐藤博之 写真/竹中圭樹(アーティストフォトスタジオ)
1977年8月1日生まれ、東京都出身。84年六代目丑之助、96年に五代目菊之助を襲名。『NINAGAWA 十二夜』(05年ほか)『摂州合邦辻』(10年ほか)『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』(19・22年)『ファイナルファンタジーX』(23年)。ドラマ「グランメゾン東京」(19・24年)「連続テレビ小説カムカムエヴリバディ」(21〜22年)などにも出演。
2013年11月28日生まれ。東京都出身。19年に七代目尾上丑之助を襲名し、『絵本牛若丸』で初舞台。23年には『ファイナルファンタジーX』に出演。