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INTERVIEW

『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』 八木勇征

八木勇征が主演を務める映画『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』が公開される。鈴木おさむが作家業の引退前に「どうしても作りたかった」という朗読劇を映画化。人生で一度だけ使える魔法を4人の高校生たちがどんなことに使うのか? そのてん末を感動的にる本作で、八木はピアニストになる夢を持つ主人公・アキトを演じる。自身も 「台本を読んだ時点で泣いてしまった」という、この作品に寄せる思いを語ってくれた。 

 鈴木おさむが原作を手掛けた同名朗読劇を基に、彼自身が脚本を務める映画版が『僕らは人生で一回だけ魔法が使える』。18歳から20歳までの間に 「人生で一度だけ魔法が使える」という町の秘密を告げられた高校生4人が、それぞれどんな魔法を使うのかを詩情あふれる映像で追った青春ファンタジーだ。八木と鈴木の両者は、そもそも八木が所属するダンス&ボーカルグループ・FANTASTICSのステージ台本を鈴木が手掛けるなど、かねてから仕事をしてきた仲。主人公アキト役は、鈴木自身 「アキトはめちゃくちゃ勇征のイメージ」と八木本人にも。まずは、その鈴木による脚本の感想は?

 「もともと初演の時から朗読劇のことは知っていて、気にはなっていたんです。スケジュールの都合で見に行けなかったんですけど。この映画の主演が決まったあとに、(FANTASTICSの佐藤)大樹くんもこの朗読劇でアキト役を演じていたので、その時の台本を見せてもらったんですよ。それを読んで、めちゃくちゃいい話だなって思って。恥ずかしい話、泣いちゃったんです。さらに、映画のための正式な台本をもらった時も、共演者で本読みをしたんですけど、みんな熱が入りすぎて、めちゃくちゃ泣いちゃって。とんでもない脚本の力ですよね。読めば読むほど、どんどん引き込まれていって。本読みの段階で、もう自分がその世界の登場人物になれちゃったという感じでしたね」

 どんなところにそこまで心を打たれた?

 「一貫して人類愛なんですよ。思いやりの心だとか、仲間の絆、友情…。だから、アキトもそういうものをすごく大事にしながら演じました。でも、そういうものって高校を卒業したあとも全員が全員、続いていくものでもないのかなって。高校時代の友情って、意外と儚いものだと思うので。大人になったらまったく会わなくなる人も、きっといるはずだから。それは僕自身もそうですけど。だから、この4人も、もしかしたら人生の中でこの時しかコミュニケーションを取り合わない人たちなのかもしれないし、そうだとしたら一緒に過ごせてる時間って、すごく貴重だなって思うんですよね。その時にしか会わない人、会えない人っているから。同じ時間は二度と戻ってこないので、今、学生の人がいたら…いや、それは社会人も同じか。この映画を見て、そういう今しかない時間を大事に生きようって思ってもらえたら嬉しいですね。僕自身もそう思いながら生きてます。すごくたくさん共感を生んでくれる作品だと思います」

 鈴木おさむとFANTASTICSとの初仕事は、グループ初のホールツアー、『FANTASTICS SOUND DRAMA 2019 FANTASTIC NINE』。

 「このツアーは、新しいエンターテインメントの1つとして、お芝居とライブを融合した内容だったんです。その時から交友関係が続いていて、もともとは朗読劇の方に出てほしいっておさむさんから言われていたんですよ。だからこそ、今回の実写化でアキトを演じさせてもらえるのは光栄ですし、お話を頂いて嬉しかったです。やっとできたなって」

 ちなみに、鈴木が八木を 「アキトのイメージ」と思った部分とは、どういうところ?

 「僕もまだおさむさんにそれは聞いてなくて。逆に、僕から『なんで?』って聞いてみたいです。でも、一本筋を通したいというか、絶対に夢を諦めないってところはアキトと僕自身、同じかも。それと『自分がかなえたい夢のために魔法を使いたくない』ってところは、もうめちゃくちゃ共感できたんですよ。アキトの〝明るい太陽みたい〟って部分は、自分では当てはまっているのかわからないんですけど(笑)。アキトの夢はピアニストで、僕の夢はアーティストと俳優。その夢をかなえるまでは道のり、プロセス、過程があるじゃないですか。そこを味わうこともせずデビューを果たしたとしても、そのあとの自分に何ができるの? って思いますからね。経験がない状態で世に出ても、成功しないはず。自分がダメになっちゃうなって思います。夢をかなえるまでって、そこに至る辛いことも、楽しいことも、全部含めて大切な時間じゃないですか。その過程がないなんて自分は絶対無理。それはアキトも同じなんだと思いますね」

 アキトの優しく柔らかな雰囲気もまた、素の八木自身の空気感と共通するのでは?

 「でも、アキトは多分、僕よりも100倍くらい優しいんじゃないですかね(笑)。僕自身も人に対して怒らないし、穏やかな性格ではあるんですけど、アキトはもう本当に太陽みたいな存在で。どんな人にも手を差し伸べるような人ですから。僕自身は、さすがにどんな人にもっていうわけにはいかないですもんね。どんな人にも寄り添えたらいいなとは思いますけど」

 映画の舞台は、のどかな田園風景が広がる田舎町。鈴木自身の故郷でもある南房総市でロケが行なわれた。八木自身は東京出身だが、田舎の高校生役を演じるうえでの役作りは?

 「高校の部活のグラウンドがすごくのどかなところにあったので。そこへはアキトと同じように自転車で通っていましたし、南房総に負けないくらい自然豊かな場所だったので、そういう部分ではだいぶニュートラルに役に入れたと思いますね」

 アキトは音楽の道へ進むことを父に反対されている設定。八木自身も学生時代にボーカルオーディションに挑んだ経歴があるが、家族からはどんな反応があったのだろう。

 「反対はされなかったんですけど、ずっとやっていたサッカーに対して、母から『本当にいいの?』って問いかけはあって。それは僕の中では大きかったですね。大学にはサッカーのために行ったようなものだったんですが、特待とはいえ私立に通わせてもらってたので、お金もたくさん掛かっていたでしょうし。だから、サッカーをやめて新しい道に進みたいと言った時の、その『本当にいいの?』って言葉がものすごく深くて。言われた瞬間よりも、そのあとに1人で考えていた時にどんどん重く感じられてきたんですよね。これは僕だけの気持ちで結論を出しちゃいけないなって。母は、ずっとサッカーを応援してきてくれて、僕のために毎朝、早い時間に起きて弁当を作ってくれたし、帰りも遅いのにご飯を作って待っててくれたし。お風呂も洗濯も。自分も仕事をしているので、それを7、8年という長い時間やってくれていたわけじゃないですか。そんな母に対して、最初は軽い感じで言っちゃったので、そこも後悔したし。だからこそ本当にやりたいってことを時間を掛けて話したし、『だったら、頑張っておいで』って背中を押してくれたので。だからすごく感謝しています。それでこうやってこの世界に入ったので、本気で親孝行をしようと思いながら今も活動してますね」

 ハルヒ役の井上祐貴、ナツキ役の櫻井海音、ユキオ役の椿泰我と、同世代の共演者との友情シーンが印象的な本作。なかでも4人でなぜか〝ダンス〟を踊り出す〝魔法会議〟のシーンは、男子高校生らしいワチャワチャなノリが楽しくもリアル。現場でどんなふうに生まれたシーンだったのだろう。

 「あそこは、一連を長回しで撮ったんです。カットが掛かるまで8分くらいはあったと思います。だから、もうミニ舞台をやっているみたいな感じでしたね。基本は台本どおりなんですけど、台詞と台詞の間の部分に、どれだけ各々でアドリブを入れられるかっていう。例えば、僕がお菓子を食べるタイミングにしても、食べていてもシーンは進んでいくので。でも、口をモゴモゴさせながら、食べながら台詞を言うからこそ、日常感が出たりして。あのシーンには、そういう感じで生まれた動きが相当あるんですよ。それが全部ハマりにハマって、今のああいうシーンになったんだと思います。ユキオをいじる時のちょっとした間とかもそうでしたね。『あ』みたいな。みんなで目配せしながら。普通の男子高校生たちもそういう空気感になることあると思うんですけど。ちょっと仲間内の悪ノリみたいな(笑)。そういう日常感はすごくある」

 長いシーンでその空気感を成立させるために、リハーサルも入念に行なったそう。

 「リハーサルで80%くらい出来上がったところで、実際に現場に入って、その環境でやってみて。さらに現場で監督と話し合いながら、100%に近づけていった感じです」

写真/竹中圭樹(アーティストフォトスタジオ) 文/本嶋るりこ ヘア&メイク/福田翠(Luana) スタイリスト/中瀬拓外

〈続きは、日本映画ナビvol.116をご覧ください。〉

やぎ・ゆうせい
1997年5月6日生まれ、東京都出身。18年にFANTASTICSとしてメジャーデビュー。演技面では20年 「マネキン・ナイト・フィーバー」で俳優デビューを果たす。近作に映画『劇場版 美しい彼〜eternal〜』(23年)『矢野くんの普通の日々』(24年)、テレビドラマ 「婚活1000本ノック」 「南くんが恋人!?」(24年)など。主演映画『隣のステラ』(25年夏)が公開待機中。

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